夏のある日、研修医のT君が新幹線に乗った時のお話です。お盆の帰省ラッシュと重なり席にはとても座る事ができません。そのため、車両の後ろのダストシュートのところに乗ることとなりました。隣には、計らずしもトイレがあります。夏の暑い日の事でしたから風の動きにまかせ、ほのかな香りがつたわってきます。
名古屋を出発してはや、1時間。買い込んだ雑誌も読み終わりましたが、東京まであと約40分あります。なんとなく香りはさらに増してきてるような、いないような。ここでT君、ふと妙なことを思いつきました。
人の尿量は一日に約1,000~1,500mLつくられ排出されます。24時間で1,200mLとしたら、東京一名古屋間では約2時間だから一人の人が新幹線に乗っている間につくる尿量は、約100mLになります。
一日の尿量1,200(mL) ÷24(時間) x2(時間) =100(mL)
乗っている間に出す人もいれば、出さない人もいます。また、既に膀胱の中にたっぷりと充満して、新幹線に乗り込んでくる人もいます。夏の暑い時期には身体の水分は汗で出てしまいますが、とにかく乗っている間に一人の人が100mLの尿をつくって、降りるときには膀胱の中を空っぽにして降りると考えてみて下さい。
次に車両に何人の人が乗っているかです。横5列、縦20列、計100人の人が1つの車両に乗っているとします※)。1車両で100人の人が東京駅に降りるまでに作り出した尿量は、約10リットルになります。
100(mL) x100(人) =10,000(mL) =10(L)
また、16両編成の場合、単純計算で計1,600名になりますが、実際はグリーン車両の座席数は少なめのため、定員は約1,300名になります。
100(mL) x1300(人) =130,000(mL)= 130(L)
しかし、これだけでは済みません。時は,夏のピーク時、乗車率は100%以上です。仮に乗車率を150%とすると、定員の1.5倍の人が乗っている計算となり、尿量は約200リットルになります。これだけの尿量が東京に到着するまでにつくられます。
トイレは1車両おきに設置されています。つまり、16両編成では、8組のトイレが設置されています。また、ゴミ箱はトイレと同じデッキにあるため大変便利なのですが、さすがのT君もたちこめるほのかな香りに納得するしかありません。
でも、ちょっと待ってください。確か、この新幹線は名古屋が始発ではなく、博多駅のはずです。博多から東京まで片道は約5時間、名古屋から東京までの約2.5倍の時間です。
130(L) x2.5(倍) =325(L) ≒300(L)
結局、博多から東京までのたった1度の片道だけで尿量の産生は約300リットルとなります。もちろん、新幹線の中にはこれだけの量を分解してくれる大自然は在りません。
さらには、ゴミについても同じことです。ゴミ箱からあふれ出したゴミの量は決して少ないとはいえません。一人一人の出す量は少ないかもしれませんが、全体で見た時、それはかなりの量になります。環境を守ることがどれだけ大変なことなのか、T君なりにうっすらと分かったような気がしました。
参考までに、普段の新幹線は世界で最もきれいな列車の一つです。車内清掃の手際の良さは、他に類を見ないほどです。
まもなく東京駅です。僅かながらT君も300リットルへのおつとめをした後、読み終わった雑誌を持って静かに東京駅に降りていきました。夏の暑さは、まだまだ続きます。
※ 20年ほど前の研修医時代のお話です。当時、新幹線の車両には、荷物スペースはありませんでした。また、東京ー名古屋間、東京ー博多間は、当時より移動時間が短縮しています。
Coffee break!
尿をつくる腎臓の機能単位をネフロンといいます。
ネフロンは、腎小体と尿細管から構成されます。また、腎小体は、糸球体とボウマン嚢から構成されています。