胃洗浄

はじめての処置

医者になりたての頃には色々な経験をして多くのことを学んでいくのですが、初めて新しいことを行うときは常に緊張するものです。まして患者の状態が緊急で処置が必要なときや、夜間一人で当直している時などには強く感じさせられます。


今回は処置の一つとして“胃洗浄”についてです。

胃洗浄は,胃の中の残留する有毒な薬物を胃管を挿入し、胃のなかを洗浄する方法です。薬物を飲んでから時間が経過すると効果が下がるため,基本的には1時間以内に実施することが望ましいとされています。一般によくあるのが農薬や睡眠薬を誤って(?)過量に飲んでしまった時、胃の中で吸収される前に薬剤を早期に洗浄し治療を行う方法の一つです。処置を行う上で、食道や胃を傷つけたり、胃の内容物を気管内に誤嚥することもあるため、慎重に行う必要があります。特に、一人で当直をしているときなどにはちょっとした緊張感があります。


簡単な手順としては

  1. 患者さんの姿勢を、胃から十二指腸に流れないようにするため左側を下にして寝かせ、少し頭側を低くする。

  2. 口から胃管(直径1㎝程度のチューブ)を挿入し聴診器で聴診をして位置を確認する。意識のない患者さんの場合はレントゲンで確認する。

  3. 生理食塩水を、成人では1回注入量を200~300ml程度注入する。排液が透明になるまで十分に洗浄を繰り返す。

  4. 排液をチェックし、胃管を抜去する。


つまり、口から胃の中に専用のチューブを入れて、洗浄用の水を胃の中に注入し、洗浄により胃をきれいにする方法です。

睡眠薬

ある日、医者になりたてのA君が一人で夜間当直をしていたときのことです。

むろん一人ですから夜勤の看護婦さん以外だれもいません。

突然、当直室の電話が鳴り響き受話器をとるや

「先生、大変です。患者さんが睡眠薬を全部飲んでしまいました」

A君は急いで患者さんの所へ行き、急性中毒をふせぐため胃洗浄を施行しました。

誤飲してから時間も短く対応も早かったこともあり、翌日には、患者さんは無事退院しました。

翌日にも

薬物による中毒は悪心(気分が悪い)、嘔吐、発疹など軽いものから、意識障害など死にいたる多くの危険性を含んでいます。

翌日の夜間当直はB君。

当直室で一人今朝聞かされたばかりのA君の話を思い出し、“胃洗浄"の仕方を本で見ていたときに突然電話のベルが、

「5号室のSさんが、睡眠薬を飲み過ぎて、先生、一度きてください」

「アチャー!」

B君は、内心、身がひきしまる思いがし、今見ていた“胃洗浄”のページをもう一度見直し急いで病棟のSさんの病室へ走っていきました。

部屋に駆け込むと、せがむようにSさんが、

「先生、睡眠薬をいくつ飲んでも眠れないんです」

いやはや医者になりたてのころには色々なことがあるものです。

チャンチャン。

胃の構造

胃の構造