大学病院と聞くと、どんなイメージがありますか?
大学病院が出てくる映画やドラマなどたくさんあります。特に小説では、山崎豊子原作の『白い巨塔』が有名ですね。一度も小説は手にしたことがない人でも、幾度となく映画化やドラマ化をされており、ご存じの方も多いと思います。
浪速大学を舞台に、外科医・財前五郎を主人公にして教授選や医療裁判などを絡めて大学病院の裏の面を描いています。そのため、大学病院と聞くと“白い巨塔”を連想し、どこか堅いイメージが伴いがちですが、実際とは程遠いものがあります。今回は、大学病院で過ごした、古き良き研修時代のお話です。
医局は、内科、外科、小児科など、各診療科ごとの医師専用の部屋です。今では、各医師の机ごとにパーテーションで区切られ整然と整えられていますが、当時は、大きなテーブルと、それを取り囲むソファや椅子が配置されていました。各医師の個別の机はなく医局員全員で共有していました。唯一、教授、助教授、講師などは、各個室(研究室)が用意されていたため、必然的に医局にいるメインは、若手の医師や研修医になります。
医局のテーブルには、医学書や医学雑誌はもちろん、薬のパンフレット、食べ物などが無造作に置かれ、さらには心電図、胸部レントゲン写真などが棚の上に山のように積まれていました。
医局のコーヒーは自由に飲めるため(当時は、医局費でまかなわれ、見た目として無料でした)、どの先生も病棟や研究室で疲れては一回一回休憩しにきます。
当時、若手の教育に熱心な先生が多く、雑談から医学の基本、神経所見の取り方、心電図やレントゲン写真の見方など、医局で多くのことを学びました。今から思えば寺小屋のような雰囲気だったと思います。
ただ、コーヒー、お茶は自由に飲めますが流し台にコップは洗わずに徐々に積まれていきます(これがいけない!)。これらの掃除をしてくれるのが医局にいる秘書さんです。普段は教授室の中にいますが、一日一回午前中に医局の掃除をしにきてくれます。飲みかけのコーヒーから、山積みのコップ、辺りにちりばめられたゴミの数々、これらをきれいに片付けてくれます。
しかし、医局がきれいになるのも、ほんの一瞬のこと。午後には入れ代わり立ち代わり医局に人が集まり、また、外来診療の後には、心電図やレントゲン写真も増えていきます。
今では、電子カルテで全て管理されているため心電図やレントゲン写真が医局に山のように積まれることはありませんが、当時は、普通の光景でした。また、夜遅くまでの長時間の勤務は良くないのですが、当時の医局には、妙に活気がありました。それが、研修医の時代には普通だったような気がします。
夜には勉強会に出る先生達や当直の先生が医局で食事をとり、さらには夜遅くまで病棟の仕事や研究のために残る先生たちが自然と医局内で食事をとり、それらが、さらにゴミとして積まれていきます。まだ、平日は良いほうですが、夏の暑い時に休日や祝日をはさむと残飯などがほのかに発酵し、“カサカサッ”と茶色い生き物たちが所狭ましと走り回っています。何だと思いますか? 残念ですが、内緒です。
さらに、正月の休み明けは大変です。医局で忘年会などを行ったまま医局のゴミたちも年を越してしまいます。何もかもみんな一緒に年越しです。休みも終わり、新たな気持ちで新年を迎えることになりますが、同時に見てはいけない光景を見てしまうことになります。ただ、今では昔の研修医の時代とは違って、医局の中は整理され綺麗になっています。安心してください。研修時代のちょっとした楽しい一幕でした。