研修医さくらの徒然日記 後編

6.初めての尿道カテーテル挿入  (○○年4月▲日 研修医1年目)

6.初めての尿道カテーテル挿入  (○○年4月▲日 研修医1年目)

今日も救急。そろそろ救急も終わりが見えてきたかな。でもあと1週間もあるのか…今日は尿道カテーテルっていうのを入れたよ。

この尿道カテーテルっていうのは、尿は作られているのに、尿を通ることろが狭くなって尿が出なくなるっていう、尿閉の人とか、足とか骨折してどうしてもトイレに行けないとか、そういう人に入れる管のことで、特に男性とかだと膀胱までが遠いし、膀胱の入口が前立腺っていうもので覆われていることから入れにくいんだけど、今回は男性に入れることになったの。これの練習も一応医学生の時に模型でやったんだけど、その時に模型が壊れてて、うまく練習できなかった記憶があるな。

ここの病院は男性の尿道カテーテルは全例医師がやることになっているから、女性に入れるよりも男性に入れることが多くなるし、まず入れるのは、尿閉になりやすい男性の方が多いんだよね。

まあでも私自身は女だし、男性の下半身を自分でもって、尿の出る穴に入れていくっていうことをすること自体、嫌だよね。だからといってやらないといけないわけだし。

先輩がとなりにいて教えてもらいながら、言われるがままに入れていく。患者さんは「痛い!」って言って、力を入れている感じがした。力を入れると余計に痛くなるから、「ゆっくりふーってしてくださいねー」って言いながら、こっちも初めて入れるもんだから、恐る恐る入れていく。痛がっているし、余計に入れるスピードが遅くなる。

あるときに入れるカテーテルに抵抗を感じた。多分、膀胱の入口まで入ったんだろうな。それをぐいっと押すと、抵抗がなくなった。そこからさらにカテーテルを入れて行くと、管から尿が出てきた。

最後には先にある風船に水を注入して、固定する。よし、ちゃんと入った。

「よくできたじゃん」って先輩が褒めてくれて、本当に安心したよ。

思ったよりも簡単で、今まで初めてやったものに比べたら、なんか一番自信あるかも。これからもやる機会多そうだし、もっと頑張ろう! 

7.初めての直腸診   (○○年4月■日 研修医1年目)

今日来た患者さんのことを話すね。

今日は「便が突然黒くなった」と、救急に来たおばあちゃんがいた。ここの病院にはかかったことなくて、近くの病院でお薬もらってたけど、なんかまずい気がして来たんですって。黒い便か…と思って、結構大変な病気も思いつく。胃とかから出血している場合、便が黒くなるとか有名な話で、これだったらどうしよう…今から胃カメラかな?とか、あんまりない私の知識でぐるぐる考える。一回先輩に相談しよう。研修医の先輩に聞いたら、「直腸診やった?」って返事。直腸診って、お尻の穴に指突っ込んで、便の色が黒いかどうか、血が混じっていないか、直腸のあたりにできものみたいなのがないか、などを見るっていうもの。正直、人のお尻の穴に指突っ込むのなんて、嫌に決まってる。便のにおいも酷い人は酷いし、人の尻を見るのなんて、気分いいものじゃない。嫌だなって気持ちが先行する。「直腸診しないと、本当に黒い便が出ているかわからないんだよね。時々“黒く見える”ってだけで、他の人から見たら黒くないことだってあるし」…確かに。先輩の言葉に私は納得したんだけれども。でもさ、医学生の時に直腸診の練習台ですら大分恐る恐るやってたのに、それを患者さんに…?

「とりあえず指突っ込んで、ぐるっと一周触って抜くだけだから!」と、必要な準備を先輩にしてもらい、手袋を2重につけて、いざお尻の穴に!妙に生暖かい感触で、とりあえずどんなさわり心地が大丈夫なのかわからないけど、できものっぽいものはない。指を抜く。指についた便は、少し黒い感じがした。まあでも、この程度だと出血してる感じではないんじゃ…。自分もこの程度の色の便なら出ることあるような…とか思ってたけど、先輩には「一応は黒かったですけど、出血って感じでは…」とだ伝えた。「あとは画像評価と血液検査の結果だね」。そう言われるがままに結果待ち。結果は、明らかな出血してそうな画像ではなかったんだけど、血液検査でやや貧血だっていうデータが見えた。こうなるよ胃カメラをやらないと!ってことで、その人は胃カメラとなった。

結局、胃カメラでも出血はなくて、話を聞くと、「元々最近貧血があって、鉄剤を飲み始めたばかりなの」って患者さんが言ってたみたいで、鉄剤によって色は黒くなっただけだったみたい。鉄剤飲むと便が黒くなるなんて、初めて知った。この人はここの病院に初めて来た人だったから、元から貧血あるんだって知らなかったけど、本当は比較できてたら胃カメラも必要なかったって。

便の色の話も、直腸診も、本当に学びが多かったな…

8.初めての当直   (○○年5月△日 研修医1年目)

今日は初めての当直!今までは練習のために22時までの準夜勤しかやったことなかったけど、うちの病院ではゴールデンウィークが1年目の当直デビューなんだよね。24時間、朝の8時半から次の日の朝8時半まで働くんだけど、普通に考えておかしいよね?私の聞いたことある恐ろしい話なんて、当直した後に帰られずにいつも通り働いている、とかの病院もあって、普通に考えて32時間勤務(残業含めると下手したら35時間勤務!?)とかも普通なのが意味わかんない。まだ私の病院は次の日休みなのがいいけどね。これで働き方改革でテコ入れされた後っていうのが信じられない…

まあそんなことは諦めるとして、私の初めての当直は、研修医1人、3年目以降の先生が1人で構成されていて、実質2人の医師で働いているんだけど、正直まだ実際に救急始まって2週間程度なんだよね。他の研修医に比べたら、私は今救急に昼も働いているローテーションで慣れているはずだけど、やっぱり頭数に入れちゃいけないくらいの仕事しかできない。それでも救急車を受けて欲しいっていう電話が鳴り続けるし、救急に自分からやってくる人(ウォークインっていうよ)もやってくる。

今回一緒にすることになった上級医は4年目の先生で、ここの病院で研修医した人。「わからなかったら教えるから、夜にウォークイン来たら教えてね」って。すごく丁寧で、優しいから安心したよ。

何とか夜まで患者さんを何とか帰したり入院させたりして、気づいたら23時。ここまで少しは休憩できるタイミングはあれど、やること多すぎて、特に16時までは体感一瞬で終わった。時計見て「え、もうこんな時間なの!?」って感じ。一息ついて、歯磨きしたり、コンタクトを眼鏡にしたりして、寝られる準備に入った。流石に24時間ずっと起きているのなんて死んじゃうから、仮眠はとらないと。病院内PHSをすぐに取れる位置に置いて、狭い当直室で寝転がる。それが23時半。

寝慣れないベッドの上で、1時間ぐらいゴロゴロする。まだこの時間か…と、近くにおいてある時計を見ながら考えちゃってた。でも流石に疲れてたし、日付が変わって30分くらいで寝た。

…リリリン!私のPHSが鳴った。一応目は覚める。「もしもし」「あ、ウォークインが来ました」…はあ。時計を見ると3時半。実質3時間の睡眠。身体は何とかベッドから離れるけど、まぶしくて目が開かない。変なタイミングで起きたから頭も痛いし、なんか気持ち悪い。顔色真っ青になりながら患者さんの対応をした。来た人は、便秘で眠れないっておじいちゃん。「先生、なんか顔色悪いですね。患者さんより体調悪そうですよ」…一緒に居た看護師さんの言葉に、力が抜けるような気がした。頼むから、朝まで我慢してよ…!そんな心の声は、流石に実際には言えなかった。

9.初めての心肺蘇生    (○○年5月〇日 研修医1年目)

今日、研修医になって初めて、「心肺停止の人が来ます」っていう電話があった。この言葉に、私はすごく緊張した。倒れて意識ない人に対応するときに、病院じゃなきゃAEDとか使うって、運転免許を取るときにも、中学校でも、私は習ったことがあって、実際に模型で練習したことある。でも、人には初めて。初めてなのは当たり前だよってのはそうかもだけど、それでも初めは緊張するし、力ない私がちゃんと心臓マッサージを十分にできるか…。そんなことを思いながら、その人が乗っている救急車を待った。それから5分後に、サイレンを鳴らした救急車が。救急隊の人に心臓マッサージをされながら、心臓マッサージのテンポを教えてくれるアナウンスの聞こえるAEDが存在感を放っていた。「ここまでの間エーシスでした」と軽く救急隊からの事前情報を聞いて、看護師さん含めて大勢の医療スタッフでその人の蘇生を始める。エーシスってのは、心電図って普通波が見えると思うんだけど、それが何もない状態ってことで、つまり心臓が止まっていることを表すんだ。そんな心臓をもう一度動かそうと、心臓マッサージで全身に血液を送っていくっていうのが、心肺蘇生の考え方。息もできないから、ちゃんと息できるように、管を気管に入れたりもする。先輩が率先して、その「管」を入れていく。「気管挿管は次の麻酔科ローテでもやるから、ここで見て覚えてね」といいながら、先輩は気管に管を入れていく。気管挿管ってのが、さっき言ってた「管」を気管に入れる行為。私の次まわる科まで先輩は把握してくれてた…!すごい。そんなことを感心していると、「誰か心マ(心臓マッサージのこと)代わってください!」と看護師さんの声。いけない、この患者さんの心肺蘇生に集中しないと。「はい、私がやります!」私はそう言って、患者さんの胸元まで移動する。その人は50代の女性で、結構大柄だった。「代わります、3、2、1、はい!」その合図と共に、心臓マッサージを交代した。ぎゅっぎゅっと、自分の体重を全部乗せる勢いで押す。そうすると、心臓マッサージのスピードが自然と遅くなる。「遅いよ、もっと速く!」これでも限界まで速くやってるつもりだけど!?2分もしないうちに、息が上がる。汗びっちょり。「もう代わるよ、3、2、1、はい!」他の看護師さんが代わってくれた。そこまで私が疲れてる感じに見えたかな…?これ思ったんだけど、しっかり心臓マッサージをするのって、人間じゃ無理があるんじゃないかな。機械とかもあるといいのに…。この日記を書いてるときについでにそんな機械あるのか調べたら、あるんだね、そういうの。でも、「患者さんのご家族に見られたときに見た目が良くないから、使ってたけど捨てました」とかいう病院もあるみたいで、それはそれで震え上がった。命と見た目、どっちが大事なの!?

10.初めての挿管     (○○年5月◎日 研修医1年目)

10.初めての挿管     (○○年5月◎日 研修医1年目)

先週まで救急を昼間やってたけど、今週からは麻酔科にまわることに!先週、先輩が言ってた「気管挿管」とかは麻酔科で練習できるって…。私にできるかな?一応、医学生時代は模型にはうまくできてたけど…。

全員の麻酔科の先生に挨拶した後、一つの手術室に向かう。ここの手術を担当する麻酔科の先生が、いろんな薬の役割とか、量の決め方とか、そういうのを一つ一つ説明してくれる。麻酔科は女の先生も多くて、女性が働きやすい環境ってことでもある。私も女だし考えてるんだけど、ここまで薬を厳密に管理するのは難しそうだな…

「じゃあ、挿管してみようか」って、患者さんが眠った後に、先生が横にいる状態で、説明してくれながらトライ!まずは酸素をしっかり吸わせて、その後に下あごを両手で持って、しっかり口を開けたら右手で頭を支えて…

左手を離して右手だけで口を開けるようにした瞬間、口がガクンと閉じた。あれ?これってもしかして、力が結構必要?「違う、これをこうやって…」言われたとおりにしても、どうしても片手じゃ口を開けたままにできない。私の腕・手の筋肉は、かなりないのは知ってたけど、ここまでとは…「手が小さい女の人でもできるんだし、できるようになるよ」と言われながら、先生に手で口を支えてもらった状態で、喉の奥を見えるように喉頭鏡って呼ばれる器具を使う。先生の支えがあればできる。気管の入口を目で確認してから、チューブを入れる。入った!

「じゃあちゃんと空気が入ってるか音を確認しよっか」って、言われるがままに、聴診器を耳につけてもらって、聞く。詳しくはわからないけど、一応呼吸みたいな音は聞こえる。「聞こえます」と私が言って、先生も念のため確認してくれた。「うん、いいね」そんな言葉に、少し安心した。

その日はその後も2回くらい挿管を試みたけど、毎回「口を開けたままにする」っていう段階でうまくいかない。本当にこれって練習だけでどうにかなる問題なのかな?あまりにもできなさすぎてだんだん麻酔科の先生達が呆れてきているのを肌で感じた。

前に麻酔科を回ってた同期の研修医に聞いても、別にそんなに難しくないよなんて言うし…。

…うん、私には麻酔科は無理だ! 

11.初めてのAライン      (○○年5月×日 研修医1年目)

今日も今日とて麻酔科のローテ。挿管は言うまでもなく、全く成長が見られません。悲しいです。正直だんだん自信がなくなっていくのを肌で感じてる。

今日は今日までの間で一回もやったことのない、Aラインとやらを入れるってことで、やってみる!ってなった。このAラインを入れるってのが、まあ簡単に言えば「手首付近に通っている動脈(Artery)に針を刺して、点滴みたいな管をつなげる」っていうことで、一番大事な役割が、血圧を常に測ってくれるってもの。全部の手術でやるわけじゃなくて、長い手術だったり、ちょっと危ない手術だったりに入れることが多いの。これも働き出して知った。他にも状態の悪い患者さんで、集中治療室にいないと死んじゃうような人にも入れることがあるんだってさ。よく点滴をいれているけど、それは静脈に刺してるんだけど、それの比にならないほど痛いんだってさ。まあ手術中の人は寝てるからいいけどね。Aガスを採るのはもうある程度は慣れたけど、そこに針を入れたままにするのはまた違う問題だし、なんせ場所が違う。Aガスは太い血管がよく通る鼠径だけど、こっちは手首付近。血管の細さも違う。とりあえず、Aガスのようにドクドク触れるところを探さないと。…ああ、それだけじゃなくて、血管がまっすぐじゃないと、針を入れたままにできないよね。いろいろ考えることが多い。

「動脈はね、静脈より深いところにあるから、結構角度をつけて刺さないとうまく刺さらないよ」そんなことを言われながら、恐る恐る針を刺す。全然血管に刺せないんだけど?血管に刺さったかどうかは、逆血っていって、刺す針のキットに血液が逆流したら見えようになる部分に血液が出ないかを確認するんだけど、そこに全く血液が来ない。「少し抜いて、もうちょっと角度つけて深く刺してみよっか」麻酔科の先生の説明通りに刺す。…逆血、きません。それから何度かその人に試したけど、一向に血管に当たらない。「じゃあ今度は超音波を見て確認してやろっか」えっと、超音波の見方もどういう風に映るかって、頭ではわかっても、それが全然実際とリンクしてないです…とか言いたくなったけど、ぐっとこらえて超音波で動脈の走行を確認する。多分、私が狙ってた動脈はまっすぐに走行してたはず。「じゃあ超音波で見ながら刺そうか」また難しいことを…とか思いつつ、針を頑張って見えるように少しずつ動かして試す。何とか超音波で針先は見えるようになったけど、それでも刺さらない。「もういい、貸して」ついに麻酔科の先生がしびれを切らして、代わりにやり始めた。超音波なんて使わなくとも、スッと入っていった。

このAライン、どの科に進もうともどのみち入れられてないと大変なことになると思うし、練習必要だよね…。今度は入れられるように頑張ろうっと。挿管みたいにうまくいかないのが続くと嫌だな…