研修医さくらの徒然日記 前編

名古屋セントラル病院 研修医 井上 桃花

研修医さくらのプロフィール

研修医さくらのプロフィール

街中のとある病院で働き出したばかりの研修医1年目の24歳。

この病院を選んだのは、仲のいい先輩が入った病院だったからとのことだったが、その先輩から詳しい仕事内容は教えてもらっていなかった模様。

やる気はすごくあるけれど、よく空振ってしまうことが悩みの種。

国家試験のような座学は大好きだけれども、実技が学生の頃から本当に苦手で、それを克服したいと思っている。

研修医は様々な科を研修するシステムになっている。これを「ローテーション」といい、「ローテ」と略されることが多い。

この病院ではローテの必須診療科が、内科だと消化器内科、循環器内科、呼吸器内科、腎臓内科、神経内科、糖尿病内分泌内科、血液内科があり、他には消化器外科、麻酔科、泌尿器科、脳神経外科、整形外科、放射線科、精神科、産婦人科、小児科、救急科、地域医療がある。病院によってこの内容は多少変わったりする。研修病院にない診療科は、他の病院で研修することもある。

そんな中、さくらは救急からスタート。救急はどの病院でも研修医が1番活躍する場所で、回らなくてはならない期間も12週間と、どの病院でも1番長くなるように設定されている。さくらは活躍できるように成長していくのでしょうか…

1.初めて救急  (○○年4月〇日 研修医1年目)

今日は私の初めての救急での仕事!ドキドキ!救急って、イメージだとテレビドラマで出てくるような、忙しくしてて、本当に死にそうな患者さんを助ける場所!と思ってた。でも、そうじゃない患者さんもいっぱいいるんだね。

まだ入ったばかりのひよっこの私ができることとして、先輩研修医に「何やればいいでしょう?」って確認したんだけど、「じゃあ、問診をとってみようか」って返ってきて。

問診って、人のお話を聞くことだよね?医学生の時にも一応そういうのを練習する機会はあったし、そういう実技試験があった。患者役の人に聞きたいことを聞くっていう練習、何度もしたなあ…でも、本当の患者さんに行うのなんて初めてで。ドキドキしちゃう。

私の初めての患者さんは、尿を出すときに痛みを訴える若い女性だった。何を聞けばいいんだろうって、さすがに国試で勉強したからなんとなくはわかるけど、何をすればいいんだっけ…?パニックになりながらも、「おしっこに行く回数は増えましたか?」だとか、念のため妊娠の可能性とか、確認してた。尿に菌が入ったんだろうなとは思ってても、決めつけちゃだめだよと、どこかの誰かが言ってた気がする。…他に何を聞けばいいのかな?検査も、どれだけやればいいんだろう?上級医は「自分で考えろ」の一点張りだし、それを一緒に悩んでくれる人はいなくて、自信もないのに放置された気分だった。とりあえず尿検査を出してみるかって、自分で考えた結果やってみたけど、その結果を待っている間にもモヤモヤする。ちゃんと大事なこと聞けたかな…?全部の結果が出て、上級医に確認をとらないといけなくて、こんなこと聞いてこんな結果でしたって話をしたら、「ちゃんとこのような症状を今までに繰り返したことか聞いた?」「CVA叩打痛は?何も所見取れてないじゃん」…CVA叩打痛って、昔やった記憶はあれど、もう忘れた。後で勉強したら、簡単に言うと腎臓の腎盂って部分が腫れていると、背中の両横あたりを叩くと痛くなるんだって。それすら覚えてなかった。国試の勉強は先々月までやってたのに、全て忘れてるんじゃないかって、本当に不安になった。実際に人に聞くことって、一呼吸おいてから思いつくものよりも聞けなくなっちゃうんだなって、気づいた。今度からはちゃんと何を聞くかのメモをとらないと!

2.初めてのAガス  (○○年4月×日 研修医1年目)

この間初めて「問診」してみたけど、自分でまだ何もできないや…。人の話を聞くことは緊張してでも何とかなったけど、今度は何か手を動かすことをしないと…。何をやればいいかわかりません!まずは何をやればいいのかなと思って、研修医2年目の先輩に確認したら、「じゃあAガスを採ってみようか」。

…Aガスって何?私はその場で調べた。Aガスは動脈(Artery)から血液を採って、身体の中に巡っている酸素が足りているか、逆に要らない二酸化炭素をちゃんと身体の外に出せてるかなどを見る検査だって。なるほど、それは確かに必要な検査だな。この患者さんはなんか苦しそうだし、ちゃんと酸素が行き届いてないからかもしれない。

必要な検査だってことはわかったけど、どこを刺すのかなって思ったら、鼠径!鼠径って、足の付け根!ここって、国試で習った。なんか神経と静脈と動脈の並び方が他と違うから、覚えなさいとかあったな。あとはあまりおなかに近いところで刺すと腸とかに刺さることもあるから気をつけないととかあったっけ…。不安。先輩が「ここをこう触って、ドクドク触れるところがあるでしょ?ここに刺すの。ちゃんと手をこうやって添えて…」とか言ってくれたけど、触れても本当に刺さるのかな?手が震えた。確かに触れる。左手の人差し指と中指でドクドクと触れる場所を触りながら、手慣れない私がAガスキットを手に取る。「いや、そんな支えがない状態だと針先ずれちゃうよ」。私の右手は震えていた。刺す部分に消毒した時点で、私はいっぱいいっぱいで。なんとか先輩の言うように患者さんの身体に手を軽く置きながら、患者さんの皮膚に刺す。深さも感覚も、私にはわからないから、とりあえず結構な深さまで入れた。…血が引けない!おかしいな、ちゃんと刺したはずなのに。結局、その時の採血には失敗した。「もう一回試してみようか」って先輩は言ってくれたけど、自信消失。でも、やらないことにはできるようになんてならない!もう一回刺したら、ゆっくりだけど、血が引けた。やった!やっとAガス採れた!喜ぶのもつかの間、検査科の人から電話が。「これ、動脈血じゃありません」…つまり、動脈だと思って刺してたら、静脈を刺してたらしい。となりに通っている血管とはいえ、間違えて刺しちゃうなんて。結局、3回目は先輩にやってもらっちゃった。悔しい。今度は自分でできるようになりたいな。

3.初めての血液培養(○○年4月△日 研修医1年目)

3.初めての血液培養(○○年4月△日 研修医1年目)

今日も救急での仕事が。1回目の時には失敗しちゃったし、今回こそは!と思ったんだけど、まずすぐに来た患者さんは、熱がある高齢な患者さん。また呼吸が苦しいみたい。これは、またAガスを採る流れだな…って覚悟してた。そしたら上級医が、「じゃあAガス以外にも血培も採ろうか。」とか言ってて、ケツバイ?何それ?って感じだったんだけど、しばらくして、「血液培養」のことなんだって気づいた。血液培養ってのは、本当は血液の中に菌は絶対に入ってないものなんだけど、感染が酷くなると時々血液の中にまで菌が入っちゃうことがあって、それがないかを確認するっていうもの。これは違う場所から2セット採らないといけないっていう決まりもあるんだって、国試で習った。なるほど、これのために必要な血液の量ってどれくらいなんだろう。それで近くにいた看護師さんに聞いてみた。「1セットに16mLは欲しいです」。…そんなに!?Aガスの時は1mL程度でよかったのに、それより遥かに多いじゃん。さらにその看護師さんが「Aガス採るんですよね。それならついでに1セット採ってください」と言われて、もうびっくり。一気にたくさんの血液を鼠径から!?前の時でも失敗したのに!?…でも、やるしかない。覚悟を決めるしか…。それに、さらにAガスとは違うのが、血液培養をしないといけないときには消毒の方法も違って、病院によっても違うことあるんだけど、消毒方法が工程が多くなってる!これのせいで、さっき消毒したところを間違えてもう一回触ろうもんなら、全部やり直しに…プレッシャーすごい。また震える手を押さえながら、ドクドクする場所を探していく。ある、でもこれまた間違えないかな…不安はあるけど、とりあえず刺してみる。「わ、ちゃんとできた!」今回は無事に刺せて、血液がシリンジ内にだんだんと引けていく。「ふう、この姿勢じゃこれ以上引けないから、右手の場所を変えよう…」そう思って左手で針を支えながら一瞬右手の位置を変えた途端。「あれ、血液が引けない…!?」さっきまでは順調に引けてたのに、突然引けなくなったの。「ああ、それはさくらちゃんの手を動かした時に、針先がずれちゃったんだろうね」あんなに左手で支えてたのに、それでも動くの!?ショックだった。「針を少し入れたり抜いたりすると、また引けるかもよ」って言われて同じようにするけど、全然引けない。「血が固まっちゃったかもね」また失敗してしまった。落ち込んでる私を上級医が「よくあることだからね」と慰めてくれたのが身にしみた。結局、血液培養2セットは看護師さんが静脈から全部採ってくれた。今度からは私もできるようになるよう精進します!って、誓った。

4.初めての縫合(○○年4月◎日 研修医1年目)

今日もまた救急!救急って、いろんな患者さんのいろんな症状を、こんな病気なんじゃないかって考えながら検査とか問診とかしないといけないから、結構なエネルギーを使うんだよね…でも、勉強になることは多いなって思う。

今日初めてやったことは、ナート。ナートってなんぞやって、私も初め先輩に言われたときに思った。ナートは「縫合」のこと。確かにさっき救急車で運ばれて来た患者さんの頭に血がいっぱいついていて、覆ってあったガーゼを開けると結構パックリ傷口ができてたな…。処置前にいろいろ検査をしてもらうんだけど、検査中に必要な物品を先輩に教えてもらう。「まずはこの糸と、滅菌手袋と、麻酔とね…」場所を覚えるだけでも精一杯なのに、この後縫うの?練習キットの上で練習するのは確かにやったけど、人を縫うなんてやったことないし、ましてや局所麻酔の注射なんて初めて。検査から戻ってくるその患者さんが自分がいるところに近づいてくるのを感じるたびに、胸がドキドキするのを感じた。「じゃあまず、このシリンジに麻酔薬を吸ってみようか」。麻酔薬を吸う動作すら手が震える。「そんなに緊張しなくても」…って、患者さんに聞かれますよ先輩。傷口を水できれいに洗う。「痛い!」って言われるたびに、「ごめんなさい!」をいいながら、丁寧に。傷に変なものはついていないことを確認して、麻酔する。「まずは吸ってみて、血液が引けないことを確認してね」と言われるがままにやってみてた。血液なんて引けなかった。「じゃあ麻酔薬を注入してみよう」って、シリンジを押すんだけど、全然中に入っていかない。少しだけ入ったら、患者さんは痛みを訴えなくなった。あとで知ったんだけど、入れる場所をもっと深いところにしないといけなかったのに、びびってたせいで思ったより浅かったからだったっぽい。まあそれは置いておいて、さあ、実際に縫ってみよう!ってなったなんだけど、大体3針くらいの大きさの傷だった。練習台よりちょっと硬くて、持ち方を間違えたら針が曲がりそうになったり、結構難しかった。でも、見た目は案外悪くないのかも??上級医に確認したら、「良さそうだね」っていってくれた。自信なかったものの中で初めて成功したんじゃない…?ちょっと自信ついたけど、このままではまだだめな気がするから、今度学ぶ機会があったらちゃんとしっかり勉強してみようっと。

5.初めての超音波検査(○○年4月●日 研修医1年目)

今日も救急…。そろそろ疲れが来た。もう休みたいな…初めの情熱なんて、今じゃどこにあるかすらわからない。そんな私の耳に入ってきた言葉は「胸痛呼吸苦の中年男性が来ます」…今まで見てきた患者さんより緊急性の高い病気が隠れているにおいがするぞって思って、一気にやる気が出た。

先輩に「さくらちゃん、まず何の検査をすると思う?」って聞かれたから、「心電図検査ですか?」って自信満々にいった。胸が痛い人って、心筋梗塞のことがあって、ちゃんとそれを確認したいよねって、救急の勉強でやった!「そうだね。他にも怖い病気が隠れてる可能性があるから採血とかも含めていろいろ検査しないとね」との先輩の言葉で、はやる気持ちを少し落ち着かせる。

結局その患者さんは心筋梗塞みたいな心電図の結果が出て、循環器内科の先生を呼ぶことになった。循環器内科の先生が来てすぐに「まだ1年目だし、さくら先生はまだ心臓超音波当てたことないでしょ?」と私を見るなり質問され、「そ、そうです…」って知らない先生におびえながら答えたら、「なら、ちょうどいい機会だし、やってみよっか」って。医学生の時に模型で当てたことはあっても、本物でどう見えるかもまともにわからない状態で、どっちがどっちで見えているのかもわからないのに!?と思いながらも、やっぱり何事も実践だ!なんて思って、超音波の器具(プローブっていうんだって)を持つ。全然心臓が見えないぞ…?「これはね、こう当てるんだよ」って、循環器内科の先生が後ろから支えてくれる。すると、見え始める。「心臓が動いてる…」私の素直な感想に、笑われた。「この人はここの壁が動いてないね。わかる?」って、超音波の画面を見ながら先生が指さす。動いて見えるのは、私だけ?私の疑問の表情を察してくれたのか、その先生は画面の半分あたりを手で隠して、また話す。「ここを隠してみると、動きが悪いのがわかると思うんだよね」…うーん、いわれてみればなんとなく?正直、所見で指摘できそうにないなって、思ってしまった。「こういうのは経験だから。慣れだよ、慣れ」。そんな言葉にちょっと安心した。まだ私は4月で働き始めたばかり。ここからできるようになることが多いはず!そう信じて、とりあえずその超音波の動画を見続けた。